「何を逃げちょーか」
「…………」
怒っているようで、呆れてるような、何とも言えない冷たさが伝わってくる。
「……何で来たの?」
「あんたが逃げるからだけん」
逃げてなんかいない。そうはっきり言えなくて、あたしは下を向く。
「……とりあえず、どっか行こ」
顔を上げると、郁子は既に歩き出していた。
「……」
あたしは力なく、足を前に進める。
やっぱり、郁子が言っていたことは嘘なんじゃないかな。だけど嘘だとしたら、郁子がここまでするとは思えない。
本当なのかな……。
どっちにしたって、避けたい話題でしかなかった。
あたしは歩く。
その先で、何が起こるかも知らずに。