でも我が家の洗面所はそんなに広くない。

数歩下がった所で、廊下と洗面所を繋ぐドアに私の体がぶつかった。

「逃げないで」

そう言って綺麗な茶色の瞳のリクが真っ直ぐに私を見つめたまま、両手で私の頬を挟んだ。

うわ、またしてもキスされる~って覚悟を決めて思わす目をつぶった。

私は体を硬直させたままじっとリクに襲われるのを待つ。

ん?

あれ?

いつも感じる唇の感触がない。

クスクスクス

リクの両手が私の頬から離れた。

おそるおそる目を開けると涙目になりながらお腹を抱えて笑っているリクがいた。

「しーな、ビビリすぎ。そんなんじゃ彼氏できても、キスさえさせてもらえなくてすぐに捨てられそーだ」

「なっ、リクのせいじゃない」

「俺のせいなの?」

「だって、リクが昨日みたいなことするから・・・。もういいっ」

私は自分の後ろのドアの方にくるっと体の向きをかえ、洗面所から解放された。

リクの意地悪、姉をいじめてそんなに楽しいか、欲求不満ヤローめ!!

私はリビングで新聞を広げているママに

「行ってきますっ」

それだけ言って、リクを置いて玄関から外へ飛び出した。