「しーな、感じ悪い」

え?っていうかまだリクそこに居たの?

決して広いとはいえない我が家の洗面所。
歯磨きが終わったら出て行ってくれるとありがたいのに。
私は洗面所の大きな鏡越しにリクを見て

「あだーいだーのー?」

と言ってみる。

「俺とキスした後に、そんなに一生懸命歯を磨くって、しーなすごーく感じ悪いよ」
下をむいてちょっと悲しそうにリクはつぶやく。

「だっで、まだばみがぎ、じでながっだじ」

「何言ってるか、わかんないし・・・」

とますます消え入りそうな声でつぶやく。

やばい、リクの十八番。

泣き真似すると大抵みんなリクのいう事を聞いてしまう。
美少年に憂いを帯びた瞳で見つめられた所を想像して下さい。
悪い事してなくても

「ごめんなさいッ」

と謝らずにいられなくなるから。

私も昔からこの「憂いを帯びた目バージョンのリク」にやられっぱなしの人生だ。

私は急いで口をすすぐと

「っいうか、歯磨きまだしてなかったし、べ、別にリクのチュウが気持ち悪いって意味で磨いてるわけじゃないしな訳で・・・・」

あれ?もしかしてまた私墓穴ほってる?
この言い方じゃリクにチュウしてOKよ!なんて言ってるみたいな感じに聞こえるような。

「そんなに慌てて弁解しなくても、しーなの気持ちは、よーくわかったから。そっか、そんなに俺のこと・・・」

そう嬉しそうに言うと、得意げな表情を浮かべた無敵のリクが近づいてきた。

いやーーーーっ、またキスされる。

そう簡単に、キスされてたまるもんですかぁー。

そう思って、私は後ずさる。