「都筑さん、本当にありがとうございました!」

ビルのエントランスまで見送りに来てくれた原口は、吾郎に深々と頭を下げる。

「いえ、こちらこそ。原口さん、今回のお話にお口添えいただきましてありがとうございました」
「いやいや、都筑さんのおかげで私の株も上がりました。今だから申しますと、木谷部長が長年のつき合いの広告代理店を振るとは、私も半信半疑だったんですよ。てっきり他の部署や上司とも相談してからお返事するのかと思いきや、まさかの即答でしたね。いやー、本当に驚きました。な?安藤」

急に振り向かれ、安藤はアタフタしながら口を開く。

「はい。あ!いえ、その…。私なんかが何も申せませんが」

まだ若い彼女にとっては軽く同意も出来ないだろうと、吾郎は心の中で、大企業に勤めるって大変だなと独りごちる。

「ですが、あの。都筑さんのお話には、本当に驚きました。すごい技術なんですね。勉強不足で申し訳ありません。次回お会いする時までには、きちんとデジタルコンテンツのことを調べておきます」
「いえいえ。機械オタクのおじさんの、モノ好きな長話と思って軽く流してください」

あはは、と自虐的に笑うと、安藤は目を見開いて身を乗り出す。

「いえ!まさか、そんな。素晴らしい技術です。私、もう近未来のお話を聞いているようで、圧倒されてしまって。弊社にご協力いただき、本当にありがとうございます。私もとても心強いです。どうかよろしくお願いいたします」

深々とお辞儀をする安藤に、こちらこそと頭を下げて、吾郎は二人と別れた。

(ふう…。気軽に来てみたけど、まさかこんな大きな話になるとは)

駅へと歩きながら、先程の木谷のセリフを思い出す。

業界トップの広告代理店に支払うはずだった予算よりも多いということは…。

(5000万は下らないな。いや、もっとか?)

今更ながら武者震いする。

(いやー、Aqua Blueでは幸せの女神は来なかったけど、仕事の女神は来てくれたな。こりゃ、恋愛よりも仕事に邁進しろってお告げかも)

ま、それもいいか、と吾郎はふっと笑みをこぼして駅への道を急いだ。