「おやすみ」



背を向けた彼のその一言に,涙腺は決壊した。

よかった。

彼はもう,どんなに頑張っても,どんな声をかけても振り向かないだろうから。

ここで崩れ落ちても,構わない。



「っ……ぅ」



は……と息が漏れる。

早く去ってしまえ。

もう二度と会えないあなたに,すがったりしないから。

走って,別れを知ることなどないだろう永遠の彼女のもとへ帰ってしまえ。

あなたなんて,あなたなんて。

心のなかでまで,嘘をつけそうにはないけれど。

おやすみ,おやすみ。

最後にくれた,あなたらしい優しさ。

いいよ,もう。

そこまで想ってくれなくて,よかったのに。

今日なんてなかったみたいに明日を迎えて,あなただけはいい夢を。

いつも通り,私はあなたに連絡したはずなのに。

もう,次に明日私が目覚めたとき,彼が隣に寝ていることはない。

私ね……

その寝顔を見て,その髪に触れる時が。

1番大好きで,1番切なかったの。