「泣いたりしてごめん。お父さん達が居なくなった実感は無いけど、これで天国へ送り出せたと思ったらホッとしたのかも」

「……そっか、うん、そうだな」

 決して否定せず、頷く。ポンポン頭を撫でられる。

「それじゃあ、俺が天国に行ったおじさんやおばさんの代わりに果穂ちゃん見守るか」

 腕組みして保護者を気取った。和樹お兄ちゃんにしてみれば私は妹みたいな存在、正樹より面倒をみて貰っているかもしれないが……。

「もう! なんでそうなるの?」

「だって俺が見守りたいから」

 そしてこの即答。呆気にとられる私に微笑み、続ける。

「支度をしておいでよ。ご飯食べて一緒に帰ろう」

 【一緒に帰ろう】と言われ、自分に居場所があるんだって安心する。お兄ちゃんもそういうつもりで告げたのだろう。素直じゃない私に響く言葉を熟知しているから。

「あ、撫でた時に髪型を崩しちゃったな」

 今度は毛先に触れ、角張った指へ染めたての黒色を絡める。頭を撫でるのと違い、この仕草は他の人にも触れた経験を帯びていて。

 すっと顔を背けた際、お兄ちゃんが片眉を上げる。

「茶髪も可愛かったけど黒もいいね。今日の為?」

「……うん。それとバイトを探してて」

「バイト? 大学は大丈夫?」

 苦労を重ねて入学した背景を知るお兄ちゃんは当然のリアクション。若干、声音が厳しくなった。

「まぁ、その、お金は必要だしね。瑠美も働いてる居酒屋なんだけど、初心者でもいいからって」

「居酒屋、ね」

 ますます声が低く不機嫌になり、私は俯く。

「もちろん、お金は大事。とはいえ学生の本分が疎かになるのは宜しくないよね」

 その通り、返す言葉がない。叱られる気配に唇を噛む。