キャンパスライフに波風を立てたくない。アイドル並の人気と注目を集める兄弟と比べられたくない。幼馴染だから、両親を無くしたから優しくされているって思われたくなかった。

 2人へのコンプレックスが口の中に広がり、ギュッと唇を噛む。

「なぁ、今晩のメニューは?」

 正樹は暫く黙ってから言う。

「え?」

「兄貴に夕飯作るんだろ? オレも行くわ」

「い、いや、いきなり言われても和樹お兄ちゃんも困るでしょ? そもそもお兄ちゃん、帰って来ないんだから」

「兄貴、今日は早く帰って来るって。んで、話し合うか」

「話し合うって何を?」

「ここで長話する? 目立ちたくないんだろ?」

「それは」

「なら、そういう事で」

 兄貴には俺が連絡しておく。語尾を強めに放ち、正樹は女の子達の元へ駆け寄った。楽しげな会話にレポートの話題が混じっている。
 私も教わりたい箇所があるが瑠美は受講していないうえ、彼氏が出来たみたいで。

 抱いた紙袋がーーガサリ、音を立てた。

 まぁ、間違いなく和樹お兄ちゃんに教わるのが一番分かり易いとは思う。お兄ちゃんは私の家庭教師をしていたのだ。

【サンドイッチの具はタマゴが一番好き。俺、味覚が子供なんだよね】

 お兄ちゃんがペロッと舌を出し、おどけてみせた姿が過ると同時、あの日の映像が頭の中へ流れてきた。