和樹お兄ちゃんはーー恩人。両親亡き後、幼馴染のよしみで色々と世話を焼いてくれ、その最たるが経済的支援だ。私の出世払いという建前で家賃や学費の援助を申し出る。

 保険金がおり当面の生活には困らないものの、学生の身分じゃどう転がるか分からずバイトは必至。そうなると本分である勉強が疎かになる可能性が高い。
 正直なところ、私の成績は皆についていくのが精一杯な現状で……。

「はぁ、このままじゃ駄目だ」

 お兄ちゃんに甘んじる自分が嫌になる。気にしないでいい、妹みたいなものだからとフォローされる度、モヤモヤしてしまう。

 胸に手を当て和樹お兄ちゃんは【お兄ちゃん】で【恩人】と唱える。こうしてモヤモヤに言い聞かせ蓋をしておかないといけないとーー。

「はぁ」

「また、ため息? 昼飯をジュースで済ませるから力が出ないんじゃねぇの?」

 ふいに長い影が伸びてきて顔を上げた。紙袋を掲げた正樹が立っている。

「ハンバーグはどうした? 昨日作ったんだろ?」

「なんで正樹が知ってるの?」

「いちいち兄貴が送ってくるんだ。サンドイッチ、兄貴が果穂に食わせろって」

 袋を押し付け、そのまま去ろうとするので思わず腕を掴んで引き止めた。その時、周囲の目が厳しく光って私の表情が曇る。

「……お兄ちゃんも正樹も、私に構いすぎないで」

 ダラリと垂れた腕が行き場を失くし、揺れる。

「はぁ? いきなり何。オレはともかく兄貴まで迷惑なのか? 兄貴はーー」

 両親を亡くした私の為にーーそう続くであろう発言を遮った。

「他の女の子の目が気になるって言ってるの! 何回も言ってるよね?」