「心配かけてごめんなさい、仕事を中断させてごめんなさいーー助けてくれてありがとう」

 一気に告げると涙もつられて出そうになる。噛み締めて堪え、頭を下げた。

「果穂ちゃんが無事ならそれでいいんだ。果穂ちゃんに万が一でもあれば、おじさんやおばさんに顔向け出来ない。あぁ、目元を擦るのは良くない」

 ティシュを引き抜き、泣き顔を拭おうとする。私はその仕草を頭を振って拒む。

「果穂ちゃん?」

「嫌なの!」

 テーブルへ両手を置いて乗り出した。

「嫌なの、もう」

 繰り返す。 

「えっーーあぁ、そっか、ごめん。触られたら嫌だよね」

「違う! 触るならちゃんと触って! 女性として扱ってよ! 泣き虫な妹を慰めるみたいしないで!」

 1人の女性として見て貰いたいのに駄々をこねて、これじゃあ子供だ。けれど後には引けない、引かない。

 和樹さんは仰け反り、瞬く。

「妹?」

「和樹さんにとって私は女性じゃないのは分かってる。私も妹でいいから側にいたいと振る舞った。でも、もう嫌なの!」

 スーツの上着のボタンへ指をかける。

「わー! 待って、待って、果穂ちゃん」

「さっきみたく果穂って呼んで!」

 和樹さんは脱がさまいと腕を伸ばして、時計に私の涙が張り付く。

 どうか私と和樹さんの時間を進めてーーそう願う。

 手首を掴まれたまま、間が生まれた。

「俺は……」

 スゥッと和樹さんは沈黙を破る呼吸をする。

「俺は果穂ちゃんを妹だと思った事、一度もないよ」

 もう片方の手で頬を撫でつつ、唇を掠めた。

「果穂ちゃんーー果穂が俺をお兄ちゃんって可愛く呼ぶから。君の理想を壊さないように優しく良い兄を演じていただけ」

 和樹さんも両膝を立て、額と額をくっつけて語る。