「果穂ちゃん、果穂ちゃん、大丈夫?」

 お兄ちゃんは上着を脱ぎ、羽織らせた。

「ーーはぁ」

 全身を包まれる気分となって安堵が漏れる。背中に手を回せば、ゼロ距離になるくらい抱き締めてくれた。

「あんたは何なんだよ! ピザ屋じゃねぇじゃん! 人の家に土足で上がり込みやがって! ふざけんな!」

 再会を喜ぶのも束の間、やはり彼が黙っていない。お兄ちゃんは私を自分の後ろへ隠す。

「そちらこそ舐めた真似をしてくれたな。果穂ちゃんーー果穂を連れ込んで何をするつもりだった? 言ってみろ」

 私に聞かせたことのない低い声で言い放つ。指摘されても靴を脱がないで彼と対峙した。

 スマートな体格のお兄ちゃんから怒りがとめどなく漏れ伝い、一触即発とはこういう空気を差すのだろう。緊張が張り巡らされ、ちょっとした摩擦で爆発はおきる。

「何をするつもりって、言わなきゃ分からないのか? カッコつけてるんじゃねぇぞ!」

 金髪の彼はお兄ちゃんの迫力に唾を飲むも、軽口を叩き臨戦態勢を維持。するとお兄ちゃんが無言で襟元へ掴み掛かった。

「何言ってるの? 格好なんてつかないでしょ? 今の俺は最高に格好悪い。大事にしてきた相手をお前なんかに拐われて泣かせたんだよ。それで? なぁ、果穂に何をしたの? 言ってみて」

 何処からその力が出るのか、無表情で彼を壁際へ押しやる。

「く、苦しいって」

「果穂の方が苦しかったと思うな。ほら、もっと何か言って?」