俯いて唇を噛む振りして、お兄ちゃんの横顔を盗み見る。
 その他大勢に含まれない優越と疎外感が胸を複雑に締め付けた。 

「いつかお兄ちゃんが本当に好きな人と出逢った時、そんな態度でいたら信じてくれないよ?」

 お兄ちゃんに釘を刺す、そして私にも。

「……それは困るな」

「でしょう?」

「果穂ちゃん、俺が悪さしないように見張ってよ。ね? お願い」

「見張るって?」

「本当に好きな人に好きだって言える時まで、告白を信じて貰えるように見張って欲しい」

 和樹お兄ちゃんは絶対破らない約束を交わす際は指切りする。
 見張るというのは側に居ても良いとの言い回しであり、私を1人にしないって意味だろう。

「私でいいの?」

「果穂ちゃんがいい。こんな事、果穂ちゃんにしか頼めないから」

 お兄ちゃんに本気で好きな人が出来るまでの間、妹としてでもいいので側に居たい。

 そう願って指を絡める寸前ーー夢の世界がビリッと音を立てて破けた。

「はっ!」

 夢の壁がハラハラ散るのを瞬くうち、自分に覆いかぶさっているのが金髪の彼だと認識する。

「起きちゃったのか、残念〜」

 捕食者みたく狙いすました瞳。爪先から頭にかけて嫌悪が巡った。

「な、何を! 離して!」

 知らぬ間にはだけた胸元に悲鳴を上げ、抗う。しかし抵抗虚しく、腕は縫い付けられる。バタバタ足を動かすが効果はない。

「触らないで! 酔わせてどうこうしないって言ったのに!」

「そんな嘘を信じちゃった? バッカじゃないの? 果穂チャンは大事に育てられたお姫様だなぁ〜。ところで俺が高校生の頃、果穂チャンに告ったの、覚えてる?」