「和樹お兄ちゃんがお金を出す義理はないよ」

「なんで? 苦労して入った大学を辞められたら家庭教師として残念だ。おじさんやおばさんも果穂ちゃんが卒業するのを望んでいるはず」

「そういうのは親類がするんじゃないかと」

 視線をセレモニーホールへ流す。火葬中は故人等の話をしたり、食事をして待機をするのだが、親類は赤ら顔で両親の死を悼む様子を見せず、いたたまれなくなった私はこうして退出している訳で。

「気にするのなら出世払いの名目で学費を立て替えてもいい」

「本当にお兄ちゃんは優しいね。普通、幼馴染にそこまでしないって」

「あのね、俺は真剣に言っている。一応、稼ぎはある。果穂ちゃんの学費だけでなく生活もサポートもしたいな」

「はは、気持ちは嬉しいけど、和樹お兄ちゃんにそこまでして貰う訳にはいかないよ」

「だから笑わないで。冗談なんて言ってないから」

 親類よりよっぽど頼りになる、和樹お兄ちゃん。
 私へ寄り添ってくれる、和樹お兄ちゃん。

 まるで両親からバトンを手渡され、私の面倒を引き継ぐと言っているみたい。それは嬉しくあっても喜べない。

「果穂ちゃん、遠慮しないで俺を頼って欲しいな。こんな状況になれば誰でも支えが要るさ」

「でも、お兄ちゃんにだって自分の生活がある」

「ーーひょっとして母さんから聞いた?」

「和樹お兄ちゃんになかなかお嫁さんが来ないって寂しがってたよ。彼女はいるのか質問しても、特定の相手はいないと返されるとも」

「まぁ、みんな可愛いからね。残念ながら1人に決められないなぁ」