「あ、あの!」

 果穂ちゃんの居場所が判明し、タクシーへ飛び乗ろうとすると呼び止められた。
 
「ーーあぁ、すまない。君のを返すの忘れていたか」

 軽く投げて返したところ、パンプスの側へ落下していく。

「どうか果穂をよろしくお願いします!」

 彼女は携帯を拾わず、頭を下げる。言われなくてもそのつもりだが、冷ややかな言葉を浴びせるのはよしておく。彼女の電話は充電が切れそうで、かなり発熱していたのだ。

 果穂ちゃんへの罪悪感が原動力だとしても、これだけ周囲を騒がせればミスコンのイメージを損なうと承知しているはず。アナウンサーの道が閉ざされる可能性もある。

「取り返しのつかない事態になど俺がさせない」

 伝え、タクシーの後部座席へ乗り込む。彼女は顔を覆い、静かに泣いた。

 後は部屋までどう乗り込むのかが問題か。インターホンを鳴らすだけで出てくるとは到底思えない。多分、オートロックだろうし。

「さて、どうしたものか」

 声に出し考えを巡らす。先ほど宣言した通り、果穂ちゃんには万が一も起こせない。必ず助ける。その為にならば多少の手荒さも厭わない腹積りだ。

 そもそも昨夜あんな別れ方をしなければ、果穂ちゃんを危ない目に遭わす事は無かった。

(お願い、無事でいてくれ。果穂ちゃん)

 自分が蒔いたトラブルが芽を出し、足をすくおうと絡まる。強い言葉で果穂ちゃんの安否を信じようと革靴は揺れ、不安を示す。

(おじさん、おばさん、俺が着くまで果穂ちゃんを守って下さい)

 俺は走る車内でいつしか手を編み、祈っていた。