摂取した水分が即座に涙に変換される。

「もう一度確認するけれど、彼が何処に住んでいるのか知らないんだね?」

「あたしと他の男はここで解散しました」

 問いに顎を小刻みに落とす。

 名は知っていても瑠美という女性と会うのは初めてで、他に果穂ちゃんの交友関係を知らない。
 学費を援助して以降、友達より講義内容や大学生活の表面上を語られる機会が多かった。果穂ちゃんを知ってるつもりで全然知らない。

 ーーどうすればいい? 解決の糸口を必死に探す。

「……俺が正樹の兄だってよく分かったね? 果穂ちゃんが写真でも見せた?」

「いえ、写真は見てないです。なんというか弟さんと雰囲気が似てて、それから居酒屋やバーで和樹さんを見かけたことがあります」

「そうか! 逆に友達の写真はない? あるなら見せて欲しい」

「分かりました。どうぞ」

 彼女は素直に携帯電話を預けてくれる。

 果穂ちゃんを連れ去った人物と面識はなさそう。しかし、彼が見知った場所で酒を酌み交わす映像を確認中、こんな男を見た気がしてくる。
 かすかな記憶を辿る傍ら、さまざまな人から報せが届く。彼女は彼女なりに果穂ちゃんの情報を集めているようで。

 それにしても男の金髪にピアス、いかにもな軽薄さに舌打ちしたくなる。
 俺が大事に、誰にも渡さないようにしていた対象へ不用意に触れれば許さないからな。

「この店って駅前のバー? マスターがピアノの生演奏する」

「そうです! 先輩、ここのマスターと仲が良いみたいで一緒に遊んだりしてるみたいです」

「よし、ここのマスターの連絡先、知っているぞ」

 自分の携帯を使い、該当の番号を呼び出す。

 果穂ちゃんが待つ自宅に帰りづらく飲み歩いていたツケ、皮肉にもその縁で得たモノが同時に手中へ舞い込んだ気がする。

 幸いマスターとは1度目のコールで通話でき、事情を話すと住所を教えて貰えた。