【先輩すごくイケメンで優しいの。あたしも果穂に紹介したいなぁ】

 メールの内容と程遠い印象に愕然とする。
 和樹お兄ちゃんを見慣れている事を差し引いてもカッコいいと思えないし、瑠美は脅されていたと考える方がしっくりくる。

「行こう、瑠美」

 彼等の相手はこれ以上しない。瑠美に手招きすると、その動作を文字通り握り潰された。ゴツゴツした指先の生温さをすぐさま振り払ったが、彼は歪んだ笑みを崩さない。

「果穂チャンは瑠美の親友なんでしょ? なら瑠美がアナウンサー志望なの知ってるよね?」

「それが?」

「俺の親、芸能界にコネがあるんだ。果穂チャンと楽しく呑めたら、瑠美と親を繋げてもいいかなぁって」

「……」

 瑠美は言葉を発さず、肯定も否定も放棄した。
 私を利用して将来の夢を叶えようとしたの? 訊ねたい唇を噛んで俯く。

 ここ半年間、瑠美がアナウンサーになる為、一生懸命努力していたのを誰より近くで見てきた。だから頭ごなしに怒れない。むしろ瑠美につけ込む真似が許せない。

「どうする? 俺の家に来る? 来ない?」

 行けば危ない目に遭うのは確実。

「ちゃんと瑠美を繋げてくれるんですよね? 芸能界のコネとやらに」

「か、果穂、あたし、やっぱりーーんぐ!」

 取り巻きが瑠美の口元を塞ぐ。もがく瑠美の瞳は後悔で濡れ、私は心の何処かでホッとしてしまう。瑠美が私にくれた明るさが100パーセント、嘘じゃなくて良かった。

「行きます」

 問い掛けて、首を傾げたままでいる彼へ、私は真っ直ぐ返した。