「はぁぁ」

 洗面所でため息を吐く。泣き過ぎて頭が痛い。

 昨夜、正樹に送って貰った後はひたすら自己嫌悪に陥り、どうすれば良かったのか答えを探し続けて寝不足だ。

 顔を洗い、改めて顔を見る。腫れて浮腫んで目も当てられないコンディション。それでも大学に行かない選択肢は無かった。学費を援助されてる身分でズル休みなんて出来ない。

【果穂さ、嫌なら兄貴の晩飯作らなくていいんだ】
【学費を気にしてるんだろうけど、兄貴も返済はいつでもいいって言ってる】

 歯磨きしつつ、正樹の慰めの言葉を思い出す。

(和樹お兄ちゃんの夕食を作るのは楽しかったし、学費の返済という繋がりですら嬉しかったから)

「はは、何やってるんだろ私」

 鏡の中の私は私を上手に笑えていない。

 身支度を整えて部屋を出る際、床へ転がる携帯電話が目に入る。

 お兄ちゃんから連絡が来ないか待って、待って、待ってーー結局鳴らなかったので放り投げたまま。今は電源が落ちているだろう。
 取りに戻ることはせず、ドアを締めた。

 和樹お兄ちゃんと私は、隣に住む歳が離れた幼馴染。憧れのお兄ちゃんという枠に気持ちを収めてはみ出さなければ、妹でいられると思ってた。妹なら側に置いて貰えると思いたかった。

【果穂ちゃんは関係ないのにごめん、本当に】

 ところが、こんな風にお兄ちゃんに言われてしまい、繋がり事態を否定される。

 ーー胸が痛い。

 あぁ、こんなに切ないのであれば妹なんて演じず、恋愛感情で傷付けられた方がマシ。それこそお見合い相手である由佳さんみたく正々堂々ぶつかれば良かった。