「果穂ちゃんは関係ないのに。本当にすまない」

 掴まれた腕より、関係ないの一言が痛む。咄嗟に大きく息を吸い吐いた。

「はぁーーはは、私の方こそ」

 笑ってやり過ごそう、聞かなかったことにしよう、事なかれにしよう。ここで泣けば空気をますます重くする。

 唇を噛む。出来るだけ強く噛んで俯く。

「正樹、片付けは俺がやっておく。果穂ちゃんを送ってくれない?」

 謝罪をし合ったとはいえ、仲直りに至っていないはず。だけどお兄ちゃんは解散を宣言した。
 急展開に正樹もオロオロするが、構わずテーブル上を撤収し始める。

 お兄ちゃんはやらないだけで生活能力が乏しい人じゃない。炊事洗濯は一通りこなせ、でなければ厳選された家具達だけで暮らせないだろう。掃除が得意なタイプこそ、余分な物を所有しないのだ。

(私、和樹お兄ちゃんに必要じゃない)

「はい、バイト代。いつもありがとう」

 顔を上げられないままの私に封筒を握らせた。

「帰ろう、兄貴はあぁなったら無理。俺が後から怒ってやるよ」

 洗い流す水音にヒビ割れる音が加わり、舌打ちまで聞こえた。

 私は正樹に今にも泣き出す肩を抱かれ、マンションを後にする。