「好きな人をどうしても諦められないってこと、あると思う。もちろん相手が迷惑しているなら止めなきゃいけないけど。
 それに正樹やおばさんが由佳さんを庇うなら、少なくてもストーカーとかじゃない気がするーーかな」

 言い終えた頃にはお兄ちゃんは真顔。感情を削いだ顔立ちが私への失望を物語る。

 ひりついた沈黙が部屋に充満していく。

「果穂は平和主義だからなぁ、どっちの肩も持たないだけ。な? そうだろ?」

 正樹は私の横へ移動すると背中を叩いた。

「本当に平和主義なら俺側につくでしょ。果穂ちゃんの考えはよく分かった」

 自分の食器を持ち、立ち上がる。私も手伝うとしたら腕を掴まれ、テーブルを挟んで引き寄せられた。

「俺さ、自分なりに果穂ちゃんに尽くしてるよね? 支えてもいるつもり」

「お兄ちゃん?」

「だから俺と付き合って? いいよね? 付き合おうよ」

 【俺と付き合って】夢に描いたフレーズがあまりにも攻撃的で震えてしまう。恋愛要素を微塵も含んでいない。

「兄貴! いきなり何を言ってるんだ!」

「お前等がやってるのはこういう事なんだって!」

 正樹と同等のボリュームで言い返し、お兄ちゃんは顔半分を覆う。

 私は由佳さんに味方したんじゃない、好きな人の為に努力する姿勢を否定したくなかっただけ。それをお兄ちゃんは由佳さんと付き合えばいいと受け取ったのだ。

「ーーすまない、果穂ちゃんに八つ当たりした」

 つまり和樹お兄ちゃんの脳内では由佳さんと交際するストレスの度合い=(イコール)私が学費援助を理由にお兄ちゃんから迫られる、なのか。

 私達の採用する計算式が違い過ぎて、結果、導き出す答えも違う。