「1つ訂正すると女性なら誰にでもじゃなく、可愛い子なら誰でもかな」

「……訂正するの、そこ?」

「これは大事な部分だから。仮に先方の女性が俺の為に修業しているならやめて欲しい、怖いよ。正樹や母さんからも言ってくれない?」

 和樹お兄ちゃんはお見合い相手を先方呼びして崩さない。

「俺は付き合えない、結婚なんてもっと考えられないと伝えたんだ」

「由佳さんは兄貴に振り向いて貰えるよう料理を頑張ったりしてて。健気じゃん!」

 なんとなく事情が読めてきた。おばさんと正樹は由佳さんの行動力に絆されつつあるんだろう。

「……健気だから何? 献身的に支えたら好きになってくれるの? 付き合える訳?」

 お兄ちゃんと目が合った。言葉の刃が私へ突き付けられたみたいだ。

「果穂ちゃんはどう思う?」

「なんで果穂に聞くんだよ!」

「だってお前と母さんは先方の味方だろ?」

 透明な切っ先が喉を圧迫する。答えを求めるお兄ちゃんの瞳に焼かれそう。

 膝の上で拳を作り、浅く、浅く呼吸をして言葉を絞り出す。

「和樹お兄ちゃんにしてみれば、お見合いを断ったのに花嫁修業をされて、その、えっと」

「迷惑だよね?」

 頷く。お兄ちゃんは気を持たせるのが上手な分、突き放すのも心得ている。私自身が証拠だ。

「ほらな、果穂ちゃんもこう言ってるーー」

「でも!」

 珍しく大きな声を出してしまい、2人は同時に私を見た。いつもの調子で俯いてしまうのを何とか堪え、唇を解く。

「私、由佳さんの気持ちも、分かるかも」

 瞬間、お兄ちゃんが見開いた。