ーーコトンッ、和樹お兄ちゃんがグラスを置く。

「お兄ちゃん?」

「果穂ちゃん、【正樹となんか】結婚させないぞ。俺は認めない!」

 一方、和樹お兄ちゃんは冗談が通じないところがある。軽口を叩いて本音をはぐらかすのが得意なのに、分かりやすく気分を損ねるんだ。
 そういう部分が可愛いと言ったら怒られそう。

「もう! 冗談だってば。正樹は女の子に囲まれてハーレム状態なんだよ? 私なんかーー」

 言いかけ、次はお箸を置かれる。

「正樹を取り巻く子を見た事はないーー興味もないけど、きっと果穂ちゃんの方が魅力的。俺が保証する。だから【私なんか】は言わないでくれ」

 根拠が弱い、無いに等しい見立てに胸がざわつく。嬉しいと疑わしいが混じって、曖昧なリアクションで返す。

「うちの大学、可愛い子やキレイな子が多いの、卒業生のお兄ちゃんも聞いた事はあるでしょ? そうそう瑠美はアナウンサー志望でね」

 瑠美の名を出すと、何故か正樹が固まった。

「き、今日は彼女の話題はよそうぜ。それより果穂も食えよ。喋ってばっかで手付かずじゃんか」

「うん」

 学費を援助してくれるお兄ちゃんへ大学生活の様子を報告する良い機会と考えたが、黙った方が良さそう。
 テーブル下で正樹が蹴られていた。

 私がお味噌に口をつけるとお兄ちゃんも食事を再開する。がっつかず、きちんと咀嚼。落ち着いた所作もおばさんの教育の賜物か。

「……はぁ、完璧なお姑さんが居るもんなぁ」

「何?」

「結婚っていえば、2人のお嫁さんはおばさんに驚くだろうなぁってーーん? お味噌、しょっぱいね? ごめんなさい」