「正樹に鍵を渡してないの?」

「何が悲しくて弟に合鍵を渡すの」

「とか言ってメールをマメに送り合ってない? あっ! サンドイッチごちそうさまでした」

「どういたしまして。残さず食べた?」

「完食した」

「よし。えらい、えらい」

 私も携帯を確認するが正樹からのメッセージは無かった。その代わり瑠美のアイコンが表示されている。

【先輩にどうしても果穂を紹介してくれって頼まれて。果穂、やっぱり来れないよね?】

【先輩すごくイケメンで優しいの。あたしも果穂に紹介したいなぁ】

 昼間に話した件、か。お兄ちゃんの気を引きたくて話題を持ち出したものの、不参加の意思は変わらない。

「はぁ」

 ため息をついたのはーー和樹お兄ちゃんだった。

「お兄ちゃん?」

「内容、見えちゃった」

 荷物を一緒に持っているので画面が視野に入っても仕方ない。

「瑠美って子、ミスコンの?」

「瑠美を知ってるの?」

「正樹が言ってた。彼女と仲良いんだ?」

「お父さん達が亡くなってからかな」

「派手そうな子だね?」

「確かに外見は華やかだけど、性格はしっかりしていて。私は瑠美を親友だと思ってる」

 やりとりの途中で正樹がこちらに気付き、駆け寄ってきた。するとお兄ちゃんはエコバッグを彼へ押し付け、大股でエレベーターに向かう。

「あれ? 兄貴、機嫌悪い?」

 尋ねられても直近の会話では思い当たる節がなく、首を振る。

「置いていくぞ!」

 響く声に私と正樹は顔を見合わせ、触らぬ神になんとやら。慌ててお兄ちゃんの後を追った。