「……じゃあ、可愛い子には優しくするって言ったのは覚えてる?」

 言いながら隣へ並び、エコバッグの持ち手を1本ずつ握って重みを分け合う。

「覚えてるもなにも信条として掲げてる」

「だったら私に優しくしないで」

「どうして?」

「私は可愛くないから」

 和樹お兄ちゃんは歩幅を合わせてくれる。でもピカピカに磨かれたビジネスシューズと汚れたスニーカーじゃ、同じ道を歩いていても行き着く先は違いそう。ギュッと唇を噛む。

「果穂ちゃんは可愛いよ」

 やや間があって返された。

「果穂ちゃんは可愛い」

 もう一度言う。

「今も明日も明後日も。果穂ちゃんは可愛いよ」

 小指と小指がぶつかり、まるでこの先ずっと優しくすると約束されているみたい。

「毎回、俺の好物を作らなくてもいい。果穂ちゃんの手作り料理を好物にしよう」

「え?」

「サラダ、煮物、焼き魚とか。健康を気遣って用意してくれるなら、その気持ちが嬉しいーーただ」

 ここで言葉を切り、溜める。私は視線を感じつつも顔を上げない。

「それはバイトの領域じゃないよね」

 お兄ちゃんに頼まれたメニューを作り、帰宅を促す電話をする。これがバイトの条件。

 例えば、おばさんならお兄ちゃんに栄養が偏らない食事を勧められるし、正樹は定時で帰って来てとお願いをきいて貰える。本物の家族だからだろう。

「ごめんなさい、お節介だったよね?」

「なんで果穂ちゃんが謝るの? 仕事熱心なのは良い事だ」