スーパーで3人分の材料を買い、マンションへ向かう途中。

「果穂ちゃん!」

 正面から突然、お兄ちゃんが現れる。声は毎夜聞いていてもスーツ姿を見るのは久し振りだった。

「……」

 実物のお兄ちゃんに見入ってしまい、挨拶が出てこない。するとエコバッグを持ってくれた。

「3人分も買わせてごめん、重かったよな」

 当たり前にお兄ちゃんは車道側を歩く。

「大丈夫ーー優しいね」

「可愛い子には優しくするって決めてる。知ってるでしょ?」

 知っている。夕食の買い出しをするようになってからお米や水を買った事がない。

「ふーん、正樹にも優しいんだ?」

「正樹は可愛くないだろ。何食ったらあんなにデカくなるんだ」

 腕を上げ、正樹の目線を示す。高級スーツから浮く腕時計は、私が就職祝いでプレゼントした品だ。

「おばさんの手料理じゃない? 栄養バランスが良いうえに美味しい。お兄ちゃんもたまには食べに帰ったら?」

「家族で1人だけ生活スタイルが違うと気を遣うし、遣わせる。それにもう大きくなる必要はない。俺は好きなものを好きなだけ食べたいよ」

「もう! そんな食生活したら病気になっちゃう。私、お兄ちゃんを病気にした犯人になりたくないんですけど」

 基本、リクエストされたメニューを作っており、今夜はトンカツ。千切りキャベツを添えるにしても野菜不足は否めない。

「ーー病気」

 顎に手を当て、なにやら思い当たる節がある様子。

「もしかして会社の健康診断で引っ掛かった?」