「果穂ちゃん、俺が悪さしないように見張ってよ。ね? お願い」

 ーーあの日、和樹お兄ちゃんがそう言ったんだから。



 ポー、ポー、鳩時計が鳴いて2時を報せる。今夜も和樹お兄ちゃんはまだ帰って来ない。携帯電話には着信やメールもなく、そろそろ私から連絡しなきゃいけなかった。

「はぁ」

 深呼吸とため息が混じり、テーブルの上のハンバーグをより冷ます。和樹お兄ちゃんの好物を用意したというのに帰ってくる気配が一向になくて。恨めしげな顔が真っ黒なディスプレイへ映る。

 このまま夜が明けるまで待っている訳にもいかないだろう。私は朝から講義で、ランチの約束もしていた。

「はぁ」

 もう一度大きく息を吐き、コールする。飲み会かな、デートかな、それとも仕事かな。和樹お兄ちゃんの予定はその日の気分なので把握しづらい。とはいえ、寂しがり屋はなんにせよ1人で過ごす事はない。

「ーーもしもし、果穂ちゃん?」

 通話はすぐに始まった。お兄ちゃんの背後から賑やかな声が聞こえ、これは飲み会か。

「何処にいるの?」

「んー、えっと、駅前の居酒屋」

「もう2時だよ」

「あー、うん」

 陽気な口調から楽しい席であるのが窺われる。