満月の夜の時計台の下では不思議なことが起きるって、あれ、本当だったんだ。



「は?おまえ、未来から来たの?」


「そう!十六年前からこの世界に来ちゃったみたい!なにこれすっごーい!あはは、ビルも交差点もなーんにもないんだ。あんなに明るくて眩しかった同じ場所なのに、時代が違うだけでこんなに違うんだ」



広い広場を駆け回ろうとするが、その前に男の人に腕を掴まれた。



「いやいや、なに能天気なこと言ってんだよ。それが本当なら、帰る方法探さないとだろ?」


「…いいよ、そんなの。ずっとどこか遠い場所に行きたいって願ってたし。帰れなくたって別にどうでもいい」



居心地の悪い家も適当につるんでいる友達がいる学校も、何も楽しくなくてずっとどこか遠くに行ってしまいたいと思っていた。


せっかくその願いが叶ったんだ。今さら帰りたいなんて思うわけがない。



「何言ってんだよ。おまえの家族が心配するだろ?夜だし、もしかしたら今まさに探してるかもしれないんだから…」


「そんなわけない…!お母さんは私のこと嫌いだろうし、家になんて帰りたくない」