「頑張ったね。ううん、こんなの、頑張らなくていいよ」




穏やかで、その手の体温のように温かい声。

その言葉に、涙が溢れそうになった。

だけど、俺は首をふる。

慰められる権利なんて、俺、持ってないんだよ…。


桜楽は困ったように眉を下げて、微笑む。



「碓氷くんは、いい人だね」



俺の言葉と真反対な桜楽の言葉に、思わず顔を上げる。


なんで?俺、悪いやつだって言ってるのに?


俺の表情にそれが現れていたのか、彼女は苦笑する。




「この前さ…私のハンカチ、拾ってくれたじゃん?」



廊下で、桜楽がハンカチを落としたから、拾って渡した。それだけだ。

そんなのは当たり前だし、別にいいやつじゃなくてもそれぐらいするのは当然だ。


言い返すと、桜楽は「それに!」と指を立てた。




「この前、通学路で猫を助けてたでしょ?」

「み、見られてたの…?」