『あっ、ハンカチ落としたよ、佐々木くん。はいこれ!』
『あー、どうも』
俺がこの街で交わした、最初の会話らしい会話。
あまりにも自然に俺の落としたハンカチを拾い、俺に手渡して笑顔を見せた変わり者の少女。
―――不思議な子だなぁ…。
それが、桜楽の第一印象だった。
桜楽は壊れたはずの俺の心を癒やしてくれた。
可哀想という同情も、助けるという聖人意識も。
要らない。救われないだけなのだから。
そうわめく俺を、桜楽は静かに見ていた。
そして、頷いたんだ。
『そうだね。』
俺のこんな言葉が肯定されたのは、初めてだった。
皆、大丈夫だよとか、流空くんのことを思ってくれているんだよとか、そういうふうにばかり言われてきたから。