病院に来た佳代と理子は忍のお見舞いに来たかのように思えたが。
二人が向かった先は産婦人科だった。
「おめでとうございます。妊娠6週目です」
医師からそう言われて佳代は焦った表情になった。
「この後、分娩予約をお願いします。予定日は12月30日頃になりますが、その頃は病院も混雑しておりまして緊急時になると研修医が担当になる場合もありますので」
「先生。今なら中絶できますか? 」
「え? 中絶をご希望ですか? 」
「えっと…今ちょっと産むには難しいので…」
「ご主人も中絶を望まれていますか? 」
「は、はい。多分…」
「そうですか。では中絶に必要な書類を用意しますので、同意書にサインをしてもらって下さい」
「分かりました」
どうやら佳代はホストと遊びすぎて妊娠したようだ。
隼人とは乃亜が産まれてから全くと言っていいほどレス状態。妊娠なんかしたら浮気がバレてしまう…。
診察を終えて出てきた佳代を理子が待っていた。
「どうだったの? 」
「妊娠してた…6週目だって…」
「それでどうする気? 」
「もちろん中絶に決まっているじゃない。だって、隼人とはレス状態なのに…」
「そうね。でも大丈夫? 乃亜ちゃんは女の子だから、男の子をって思っているんだけど」
「その事なら大丈夫よ。いい考えがあるの」
「え? 」
佳代は理子を見てニヤッと笑った。
その日の夕方。
メイは花恋の家から荷物を持って宗田家に再びやってきた。
有羽が優と一緒に帰ってくると、メイがいる事に大喜びして飛びついてきた。
「ママ、もうどこにも行かないでね」
ギュッと飛びついてきた有羽のまだ幼くとも強い力に、メイはこんなにも必要としてくれているのだと痛感した。
「ごめんね…」
それだけしか言えなかった。
レイラじゃないけど。目的を果たすまでは有羽の母親でいようとメイは決めた。
花恋はメイが宗田家へ戻ったと同時にレイヤを家に住まわせることにした。
「今日からよろしくね、レイヤ君」
レイヤは照れくさそうな顔をして何も言わなかった。
「もう何も心配する事はなくなったでしょう? 夜のお仕事は、当面いかないでね。お昼間のお仕事も、控えてほしいかな」
「…それじゃあ、ニートになっちゃうから…」
「今はそれでいいじゃない。元気になったら、好きなだけ働けばいいんだから」
レイヤは複雑そうだった。
肝臓が悪くて余命がないと言っていたレイヤだったが、あの後ドナーが現れて肝臓移植をしてもらったおかげで余命宣告はなくなった。
花恋が生きる事をあきらめないでと言ったが、臓器移植のドナーなんかそんな簡単に見つかるわけがないとレイヤは思っていた。
しかしすぐにドナーが現れた。
それは…
花恋だった。
「聞いてレイヤ君。ドナーが見つかったの」
「え? 」
驚くレイヤに花恋はそっと微笑んだ。
「安心して。レイヤ君は、これからいっぱい幸せになっていいの。レイヤ君の幸せになる為のお手伝いを、私にさせてほしいの」
「え? それって…」
「何も考えなくていい。私がレイヤ君を幸せにする」
ギュッと手を握って見つめてきた花恋。
「じゃあ俺も、花恋さんを幸せにしていい? 」
「え? 本当? 」
「だって…俺の初めてあげたじゃん…」
頬を赤くしたレイヤ。
そんなレイヤが可愛くて花恋はギュッと抱きしめた。
花恋が肝臓を提供した事でレイヤは命を長らえた。
貸しができた事でますます花恋に逆らえなくなったレイヤだが、それはそれで幸せそうである。