レイラはあれほど酷いショックを与えられても感情を表に出すことなく淡々と物事を判断していた。
しかし5年後に現れたレイラは感情をむき出しにしてズバズバと言い返してくる。
5年前のレイラとは真逆のようで…。
「隼人」
声がしてハッと我に返った隼人。
すると理子が入って来た。
「隼人お疲れ様。ねぇ隼人ちょっと聞きたいことがあるのだけど」
「なに? 母さん」
「あのね。隼人はあのレイラと一緒に暮らしているとき、何も関係を持たなかったのよね? 」
「うん。って、何言わせるんだよ」
「ふふ、良かった。隼人はしっかりと成長したのね」
「な、なんだよそれ」
「だってもし、レイラを襲っていたらと思って」
「おい、俺はそんな子じゃないぞ」
「もちろん信じているわ。でもやっぱり親としては心配なのよ」
「……まぁ、そうだね。心配かけてごめん」
理子は隼人に歩み寄ってくるとニコっと笑いかけた。
「実は今日、公園でレイラに似ている子供を見たの」
「子供? 」
「ハーフのような顔立ちをしていて瞳が青かったわ。あのレイラが子供の姿で現れたら、あんな感じかな? と思ったの。声かけたら、すっかり警戒されて名前は聞けなかったけど」
「へぇ…」
「でもとってもかわいい男の子だったわ。名門私立保育園に通っているようよ」
「ふーん興味ないね。レイラの事なんて一度も…抱いたことないし…」
「そう。それなら他人の空似ね。それより隼人、お金用意してもらえないかしら? 」
「いくら? 」
「500万でいいわ」
フイッと視線を反らした隼人は、幼い頃。理子が若い男を連れ込んで狭い部屋で喘ぎ声を出していた事を思い出した。
男に大金費やすために俺から金をたかっている。そう言えば言っていたな母親なんかより女でいたいって。今でも女でいたくて必死に若作りして派手な格好している。
「わかった振り込んでおく」
「ありがとう隼人」
ニコッと笑った理子は若作りをしていても小じわが目立っていた。
理子が帰った後。
隼人は子供の話が引っ掛かっていた。確かにレイラとは一度も関係は持ったことがない。軽く唇にキスをしたことはあった。着替えも別の部屋ですませてお風呂に入る時も脱衣所で着替えを済ませて、お互いの裸なんか興味がなく過ごしていた。性奴隷にするつもりだったが、レイラのあまりにも無邪気に笑う姿にその気がうせた。どうせ偽造結婚だからと思っていたから…
バン!
苛立ちを隠し切れず隼人が机を思いきり叩いた。そして机の上の物を床に投げ捨てた!
「…偽装結婚…俺は…本当は…」
ギュッと拳を握り締めた隼人は、怒りと悔しさが露わになった目をむき出しにしていた。
「…レイラを…愛していたのかもしれない…」
そう呟いた隼人の目が潤んでいた。
偽造結婚がバレる前の夜。
隼人は何となくレイラが入浴中に覗いてみたくなりお風呂場へ向かった。
ドアの向こうでシャワーを浴びているレイラのシルエットが見えると素直にドキッと鼓動が高鳴ったのを感じた。
こんな反応は初めてで隼人自身も驚いていた。
ドア越しに見えるシルエットでもレイラはスタイルがよく魅力的だった。
見ていると中へ飛び込んでい行きたくなり、その衝動を抑える為、隼人はその場から逃げ出した。
そのままリビングへ戻った隼人はドキドキがおさまらない鼓動を落ち着かせようと必死だった。
落ち着かせようとしても、なんどもレイラのシルエットが思い出されてくる。どんな肌をしているのだろうか? どんな胸をしているのだろうか? 乳房はまだピンク色なのだろうか? そんなことを想像してしまい、ダメだ! ダメだ! と頭を振ってその思いをかき消していた。
間もなくしてレイラがお風呂から出てきて冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して飲み始めた。
洗い立ての髪が濡れているレイラの姿は色っぽく抑えたい鼓動が高鳴るばかりで、隼人自身もどうしたらいいのか分からなかった。
寝る時間になり寝室へ向かうとレイラは先にベッドに入っていた。
クイーンサイズのベッドは広くて二人で寝ていてもよゆうがある。いつも間を開けて寝ている隼人とレイラ。
だが…
隼人はレイラが気になってしまい眠っているレイラの頬に触れた。
見かけより柔らかくすべすべしているレイラの肌に触れると、もっと触りたくなり両手で頬を覆った。
するとレイラがウトウトと目を覚ました。
目の前に隼人がいてレイラは驚いて目を開けた。
そんなレイラを見ると隼人の押さえていた感情が切れてしまった。
気づけばレイラにキスをしていた隼人。驚いているレイラは隼人を突き放そうとしていたが、ギュッと強い力で抑えられ動けなかった。
キスをしながらレイラのパジャマの隙間から手を忍ばせた隼人はレイラの胸をギュッと掴んだ。
だが掴んだ胸越しにレイラの鼓動が伝わってくると隼人は動きを止めた。
そのままレイラを解放した隼人。
解放されたレイラは特に表情を変えることなく、チラッと隼人を見た。
「ごめん…」
小さく謝った隼人。
「…気にしないで下さい。…分かっていますから…」
「え? 」
「…私…全然魅力ありませんから…」
「何を言っているのだ? そうじゃないぞ」
「いいえ、いいんです。私…この年まで経験がありませんから…」
「違うよ。ちょっと、なんでそうやって自分の事さげるんだよ! もっと自信持てよ」
「優しいですね。有難うございます」
そう答えたレイラの声が上ずっていた…。
「おい、勘違いするなよ」
え? と、レイラはチラッと隼人を見た。
「お前がその気になったちゃんと抱きたいって思っているだけだ。まだ、両親を亡くして間もないから。そんな気分になれないと思うし。ただ…お前の事を大切だと思っているだけだ」
「…そう言って頂けると、嬉しいです。私…母が病気がちで、年の離れた弟の面倒を見ていて。ずっと恋なんてしちゃいけないって、思ってい過ごしていたものですから。何も気にしてなくて…」
「そうだったのか。そんなに頑張っていたのに、気づ行けなくて悪かったな」
「いいえ…」
「でも、俺は本当にお前の事を大切だと思っている。そうじゃなければ、強引にでもお前の事襲っているよ」
レイラは恐る恐る隼人を見た。
いつも冷たい目をしている隼人だが、珍しく優しい眼差しでレイラを見てくれている。その眼差しだけでレイラは喜びを感じた。
「…セックスってお互いが本当に合意してやるものじゃないのか? 」
「そうだと思います…」
「それってたとえ夫婦でも同じだろう? それなら、お前がその気になってないのに俺が強引にできるわけないだろう? 」
「…はい…」
「ちゃんと俺に抱かれてもいいて思えたら、言ってくれ。いつもで…受け入れるから」
「…はい…」
嬉しくてレイラの目が潤んでいた。
あの時…俺は本気でレイラの事を抱きたいと思った。でもレイラの鼓動を感じて急に罪悪感に駆られて途中でやめたんだ。
大切に想っていると言ったのは本心だったかもしれない…。
ドン! と壁を叩いた隼人。
「社長お客様がいらしております」
男性秘書がやって来た。
ん? と隼人は気を取り直した。