夕方になりメイはそろそろ宗田家に戻ろうと思って駅前までやって来た。

「あっ…メイさん」
 ん? とメイが振り向くとそこには忍がいた。

「メイさん」
 駆け寄って来た忍は嬉しそうにほほ笑んだ。
「会えて嬉しいです」
「私も、会えて嬉しいわ」
 戸惑い気味の笑みを浮かべて答えたメイ。
「メイさん、あの日はすみません。僕…寝ちゃって…」
 フっと笑ったメイ。
「気にしないで、またの機会にね」
「え? また会ってくれるのですか? 」
「もちろんです」

「ちょっと忍さん? 」
 後ろから声がしてメイはゆっくり振り向いた。

 振り向くとそこには似合わないフリフリのワンピースを着た優子がいた。

「え? あんたレイラ? 」
 メイを見た優子は真っ青になった。
 そんな優子にメイは余裕の笑みを浮かべた。
「え? メイさん。優子さんと知り合いなの? 」
「ええ…よーく知っていますよ」

 優子は信じられない顔をして茫然としていた。

「忍さん優子さんとはどんな関係なのですか? 」
「あ、はい。一応婚約者…でした…」

 婚約者でしたと言われて、優子のぶりっ子な表情からギロっと怖い表情へと豹変した。
「忍さん! 婚約者だったってどうゆう事? 私たち結婚するんじゃないの? 」
「君との結婚は取りやめるよ」
「どうして? 」

 ガシッと忍の腕を掴んだ優子は今にも食って掛かりそうな目を向けていた。
「すまないけど、君にはもう疲れたよ。約束は平気でドタキャンするし、仕事中に何度も電話してきたりlineしてきたり。仕事中だと分かっているのに、返信しなかったら怒り出したり。そんな君と結婚したら、僕はきっと持たないよ」
「どうして? あなたを愛しているから、すぐに声が聞きたいし返事だってすぐに欲しいって求めてはいけないの? 」
「求める事をダメだと言っているわけじゃない。相手の事をもっと考えてほしいんだよ。僕だって仕事しているんだから」
「わかったわ、もうやめるから。そうしたら結婚してくれる? 」
「無理だよ。気持ちが離れてしまったから」
 掴まれていた優子の手を振り払った忍。
 優子はショックを受けたような表情のまま忍を見ていた。

 そんな二人の様子を含み笑いを浮かべてメイは見ていた。

 婚約破棄なんて当然じゃない? あんたはレイラをこそる手伝いをした一人だから。
 遠目で笑っていたメイはそう思った。


 忍は引き留める優子を振り払いながら去って行った。

 メイはその姿をいい気味だと思いながら見ていた。

「満足か? 」

 不意に声がして顔だけ振り向いたメイ。
 すると冷めた目をした隼人が立っていた。