メイがカフェから出て歩いてくると反対側から隼人と佳代が歩いてきた。
二人仲良く腕を組んで歩いている姿はどこから見ても仲良し夫婦に見える。だが、これが全く作り物だと世間が知ればどんな顔をするのだろうか?
メイは近づいてくる二人を見てそんな事を考えていた。
「ん? 」
佳代はレイラに気づいて足を止めた。
それに合わせて隼人も立ち止まった。
「レイラ? 」
驚いた目でメイを見てくる佳代。
若作りをして派手な柄物のブラウスに派手な模様のロングスカート姿はどこかのホステスのようで、昼間からこんな格好するなと言いたくなる。隼人は仕事の合間なのかシックなスーツ姿だ。
二人のバランスを見ているとホステスと同伴しているサラリーマンのように見える。
「まさか。…レイラはあの時…死んでいるはず」
メイはフッと鼻で笑った。
「ごめんなさいね死んでいる人間が現れて。でも残念だけど、幽霊じゃないのよ」
佳代は真っ青な顔で隼人を見た。
隼人はどこか冷めているのか冷静な目をしてメイを見ていた。
「相変わらずね。社長ともなると、こんな時間から優雅に奥様とデートですか? 」
「な、なによ。悪い? 」
「いいえ、良い事だと思います。優雅なご夫婦アピールも必要でしょうから」
含み笑いを浮かべているメイを佳代は苦虫を噛んだような表情で見ていた。
「では失礼します。お二人の邪魔をしては、申し訳ないですから」
そう言い残してメイはその場から去って行った。
が…
「あ、そうでした」
急に立ち止まったメイがそっと振り向いて佳代を見た。
「乃亜ちゃんでしたか? 大切なお嬢様」
「どうしてアンタが乃亜の事を知っているの? 」
「知っていますよ。乃亜ちゃんの事なら全て」
「え? 」
メイは口元でニヤッと笑った。
「お元気ですか? 榊英二さんは」
榊英二と言う名前を聞くと佳代の顔色が変わった。
「成長した乃亜ちゃん。お父さんにそっくりになりましたね? 」
「な、なにを言っているの? 当たり前じゃない親子なんだもの」
「親子ねぇ。そうゆう事にしておきましょう、その方が平和でしょうから」
軽く会釈をしてメイはそのまま去って行った。
「あいつ…本当にレイラなのか? 」
隣にいた隼人がボソッと言った。
「何を言っているの? どこから見てもレイラじゃない。でもどうして? レイラはお母様に心臓を移植してしんでいるでしょう? 」
「そうだな。レイラの心臓は確かに、母さんに移植された。当然レイラは死んだ」
「じゃあどうして? あのレイラは…」
「分からん。レイラには身内は両親以外いなかったからな」
「隼人大丈夫なの? レイラが生きているって事は、全部公にされるわよ」
黙ったまま隼人は歩き出した。それに合わせて佳代も歩き出した。
「ねぇ。…あの誘拐事件の事、あれは今でもレイラが犯人なのよね? 」
「そうなっているだろう? 」
「じゃあどうして、あの時、レイラは普通に歩いていたの? 」
「さぁな。初犯で執行猶予でもついたのかもしれん」
「執行猶予? でも…なんで死んだ人間が生きているの? 」
何も何も答えず隼人は先へ歩いて行った。
駅前の歩道橋の上。
レイヤが歩いてきた。
「やぁ」
ふと、レイヤの前に現れたのは優だった。
レイヤは戸惑いの表情を浮かべながらとりあえず会釈をした。
「どうしたの? そんな浮かない顔をして。もしかして、また香恋が何かしたの? 」
「違いますよ。香恋さんとは…ずっと会っていませんから…」
「そうなの? 香恋はあんなに、君の事を想っているのに」
「…住む世界が違います。…俺は…」
何かを言いかけてレイヤは口を閉ざした。
「ねぇ、せっかくだから少し話さない? 」
「いや…何も話すことは…」
断ろうとしたレイヤの手をギュッと掴んだ優。
「話そうよ。何でもいいからさっ」
なにこの人…ズゲズゲと俺の中に入ってくるし…。でも…嫌じゃないのはなんでだろう?
戸惑うレイヤの手を引いて優は歩き出した。
駅前のシティーホテル。
ここの1階には個室のカフェがある。大切な話や密会したいときによく使われるカフェだ。
「ここなら誰にも聞かれることがないよ。安心してね」
レイヤは俯いたまま何も答えなかった。
「ねぇレイヤ君。お姉さんにはもう会った? 」
「え? 」
「レイラさんに会ったから。レイヤ君ももう会ったかな? って思ったんだ」
レイラ姉さんに? もしかして…姉ちゃんに会ったのか?
動揺を隠した表情でできるだけ平然を装っているレイヤは、ごまかすためにコーヒーカップにてをかけた。
「俺は…まだ会っていません…」
「そうだったんだ」
どこかよそよそしいレイヤ。
そんなレイヤを見ていると、優は何となく気持ちを察したようだ。
「ねぇレイヤ君。しばらくの間でいいから、我が社の仕事を手伝ってくれないか? 」
「手伝う? 」
「うん、不動産投資の仕事の話しがきているから。レイヤ君の方が詳しいから力を貸してほしいんだ」
「お、俺が? 」
「レイラさんにまだ会えていないんでしょう? 僕と一緒にいれば、会えるチャンスが増えるよ」
「そ…そんな事…」
「レイヤ君は今はほとんど仕事しなくても大丈夫なんでしょう? そんな拘束するつもりはないから」
どうゆうつもりなんだ? まるで俺の事を傍に置いておきたいような口ぶりだ。レイラ姉ちゃんに会えるって言うけど。俺は、それより香恋さんに会う事が嫌だから…。
「その話はお断りします。俺、夜のお店も任されているので」
「そっか。僕にとってレイヤ君は、本当の弟みたいな存在だからさっ」
「…もう、姉ちゃんもいないから。俺の事は忘れてくれていいですよ」
「え? 何を言っているの? レイラさん生きているじゃない」
え? マジで姉ちゃんをレイラ姉ちゃんと思い込んでいる? 双子だからそっくりだけど性格は真逆だけど…。
「僕もびっくりしたよ。ひき逃げされたって聞いたけど。生きていたんだって、すごく嬉しくて」
「そ、そう…でも俺、もう上之山家に養子に行っているから何も心配しなくていいですよ」
ニコっとした目を向けたまま優はレイヤを見つめていた。
その視線はずっと変わらない優しい眼差しだった。
レイラがひき逃げされ脳死した時。レイヤは優に怒りをぶつけた。優がもっとしっかりしてレイラを守ってくれていれば、こんな目に合わなかったと。隼人となんか結婚させて誘拐犯にされてレイラの人生を狂わせたのは優だと言って絶縁宣言をした。だが、優の妹の香恋がレイヤの事をすごく愛していて追いかけてきたのだ。香恋はレイヤに優はちゃんとレイラを守っていたと何度も言っていた。
その言葉をレイヤは信じなかったが、のちに隼人が裏で手をまわしてレイラの両親が不利益になる事をしていた事が判明した。そして病に倒れた両親に何か薬を投与していたことも判明したのだ。
「レイヤ君。僕は何も気にしていないよ。君から言われた事は当然だと思っているから」
レイヤは何も言えなくなってしまった。
「答えはすぐにはいらないよ。でも、いつでも僕を頼ってきてほしい。レイラさんは…僕と一緒にいるから」
やっぱりそうなのか。
少し観念したかのようにレイヤは小さく頷いた。