「うるせーな!お前ら、ここは昼休みの女子トイレじゃねえんだよ。あ?」

得意げな顔の美々と、唖然とした表情の渚の背後から、聞き覚えのあるダミ声が飛んできた。

ここは「スマイル&ピース不動産」の営業部フロア。

「お客様のスマイリーでピースフルな毎日をデザインする」という店名そのまんま過ぎる言葉がモットーの、都心にある中堅不動産会社に渚は勤めている。

ダミ声の主は営業部長の綿貫だった。

突き出たお腹に黄色い縁の眼鏡をかけた綿貫は誰が付けたか「お洒落メガネタヌキ」と陰で呼ばれている。

それを知ってか知らずか、綿貫はことあるごとにポンっとお腹を叩いてから言葉を発する。

「・・・すみませんでした。」

渚と美々は頭を下げて素直に謝った。

「小山内。お前ブタみたいに食い過ぎなんだよ!これ以上デブったら接客させねえぞ!」

「はい・・・」

美々は肩を丸め、首を亀のように引っ込めてしょぼんとしてみせた。

綿貫は美々へ睨み付けた視線を、今度は渚に飛ばした。

「岡咲。お前、営業成績トップだからっていい気になるなよ?」

すると渚はくるりと綿貫の方へ振り向き、鼻にかかった甘ったるい声を出した。

「あら部長。部長の方こそ最近お腹まわりがますますビッグになってません?そんなお人が他人の、しかもレディの体型をあれこれいうなんて上司としていかがなものでしょう。」

さらに渚は綿貫のネクタイを掴んで顔を近づけ、その首筋の匂いを嗅いだ。

「それに部長から漂う香水の匂い・・・クロエですか?たしか奥様の香水のお好みはシャネルだと先日の飲み会で部長おっしゃってましたよね?まさか部長・・・若い女性と一夜を・・・?そんな破廉恥な部長・・・見たくなかった・・・」