渚は『紫陽花と少年』のラストページを読み終わり本を閉じた。

見ると、奈央は目に涙を一杯浮かべていた。

「ねえ渚。」

「ん?」

「アズサって優しいね。」

「そうだね。」

奈央は『紫陽花と少年』の本を愛おしそうに抱きかかえた。

「・・・奈央君。その本あげる。」

渚の言葉に奈央は驚いた表情を見せた。

「え?渚の大切な本なんじゃないの?」

たしかにこの『紫陽花と少年』の単行本は湊からプレゼントされた渚の宝物だ。

けれどこれは連城美里の記念すべき処女作だ。

それは誰よりも美里の息子である奈央が持つべきものであり、奈央と美里の絆が深まるためなら手放しても惜しくない、渚はそう思った。

「うん・・・でも、この本は奈央君に持っていて欲しいんだ。」

「・・・なんで?」

渚は奈央の目をみつめ、静かに話し出した。

「奈央君。今からとても大切なことを言うね。」

「・・・うん。」

渚の改まった言葉に、奈央も真面目な顔になった。