色とりどりの紫陽花を目にするにつれ、笑顔が増えていくジュン。

そんなジュンの綺麗な横顔に、淡い恋心を抱くアズサ。

しかしジュンには想いを寄せる女の子がいた。

それは同じクラスのミク。

ミクもまたジュンと同じく、周囲と馴染むことが苦手な大人しい少女だった。

ジュンはミクにも綺麗に彩る紫陽花の花を見せてあげたい、とアズサにお願いする。

アズサは胸の痛みを隠し、ジュンの頼みを快く引き受ける。

それがきっかけでジュンとミクは仲良くなり、ジュンに初めての友達が出来る。

そして梅雨が終わり初夏となって、紫陽花の季節が終わりを告げる。

ジュンとの別れの朝、紫陽花達はまた目立たぬ花となって、風景に溶け込んで見えなくなっていく。




「奈央君。今日は最後の章を読むよ?」

「うん。」

渚は『紫陽花と少年』のページを開き、挟んであったしおりを外した。

「アズサは一面に咲く紫陽花の花達に最後の魔法をかけ、真っ白に染めました。」

『ア・・・ア・・・アズサ・・・ど、どこへ行くの?』

『ジュン。もう梅雨の季節は終わったの。ほら、雨が上がって空には綺麗な虹が出ている。』

『もっと・・・もっと・・・紫陽花を、見ていたい・・・よ』

『また来年、会えるよ。それまでサヨウナラ。ミクと仲良くね。』

『アズサ。あ・・・あり・・・がとう。また絶対来年・・・あ・・・あおう・・・ね』

『うん。ジュンも元気でいてね。約束だよ。』

「でもアズサにはわかっていました。もうジュンとは二度と会えないことを。人間に姿を見られた花の精は、掟破りをしたことで、100年間仕事を取り上げられてしまうのです。その間、アズサは花ではなく森の精となって緑を増やし、また花の精となるために修行を積むことになるのです。けれどアズサは満足でした。アズサの姿は透明になり、涼やかな風となって森の中へ消えていきました・・・おわり。」