木之内惣の処女作『紫陽花と少年』は、複雑な心理描写が巧みな他の作品とは少し趣が異なる。

孤独な少年ジュンと、紫陽花の精であるアズサの心の交流を描いた、ファンタスティックストーリーだ。

物語は、ひとりの可愛い花の妖精が現れるところから始まる。

妖精の名はアズサ。

花の妖精になったばかりのひよっこだ。

紫陽花の担当になったアズサは、やっと訪れた梅雨の季節に初めての仕事を任され、喜びで胸を膨らませながら、雨の中色とりどりの紫陽花の花を、ひとつ、またひとつと順番に咲かせていた。

そんなときに、紫陽花の葉陰で泣いている少年をみつけた。

それがジュンだった。

アズサは思わず人間の姿に変身し、ジュンに話しかけた。

『どうして泣いているの?こんなところで立っていたら、雨で身体が冷えて風邪を引いてしまうわよ?』

『・・・・・・。』

『私はアズサ。あなたの名前は?』

『ぼ・・・ぼ・・・ぼくは・・・ジュ・・・ジュン・・・』

ジュンは吃音症で上手く言葉を話すことが出来ず、そのせいでひとりも友達がいなかった。

そんなジュンを励ますために、アズサは自らの力で紫陽花の色を、変幻自在に変えて見せる。

嬉しいときは鮮やかなピンク色に、悲しいときはパステルブルーに。

普通の人にはけっして見ることの出来ない、コバルトブルーの海の色の紫陽花やキラキラ光る宝石色の紫陽花、水彩画で描いたような虹色の紫陽花もジュンに見せてあげるアズサ。