エレベーターに乗り込み、すうっと身体が天に向かって浮かび上がる。

35階建てタワーマンションの30階でエレベーターが止まった。

3007号室の前に立つと、湊は上着の内ポケットの中に入っていたキーケースを取り出し、その鍵で扉を開けた。

部屋の明かりは付けられていて、玄関には女物の黒いパンプスが不揃いに投げ出されていた。

「美里!いるのか?」

そう呼びかけながら、玄関の奥のリビングへ歩いていく湊の背中を渚も追った。

リビングにもキッチンにも美里の姿は見えない。

湊は奥にある書斎のドアをそっと開けた。

そこには机の上にノートパソコンを開き、一心不乱にキーボードを叩く美里の姿があった。

「美里・・・?」

すると湊の声に気づいた美里は、くるりと振り向き、にっこりと微笑んだ。

「あら。湊君。遅かったのね。」

「・・・木之内先生・・・ですか?」

「そうよ?美里ってだあれ?」

湊と渚は顔を見合わせて落胆のため息をついた。