渚と湊は屋敷を出て大きな道路際に立つと、タクシーを捕まえた。

自宅のある赤坂のマンション名を告げ、「なるべく急いでくれ。」という湊の声に応えるようにタクシーは急発進した。

渚は深刻な顔をする湊の気を紛らわせようと、しばし話題を変えることにした。

「ねえ湊。こんな時に聞くことじゃないかもしれないけど・・・」

「なんだ。」

「その赤坂のマンションって賃貸?それとも分譲?」

「賃貸に決まっているだろ。」

「どうして?立地も建物も最上級クラスなんでしょ?買おうとは思わなかったの?」

「あそこは住み続けるところじゃない。」

「・・・・・・そうよね。」

湊はあの屋敷で、専業主婦をしながらしっかり家庭を守ってくれる奥さんと暮らすのよね。

そしてそれは・・・私じゃない。

その未来を想像し、渚は言いようのない淋しさを憶えた。

タクシーは暗い夜空にそびえ立つタワーマンションの瀟洒なエントランスの前で止まった。

「え・・・湊の家ってタワマンだったの?」

「初めて会ったときに言わなかったか?赤坂のタワマンに住んでるって。」

「聞いてない。そんな大事な不動産関連のこと、この私が聞き逃すはずないもの。」

「どうだっていいだろ、そんなこと。行くぞ。」

これだから金持ちは嫌なのよ!

たまに泊まるだけの部屋を普通タワマンにする?!

そうぶつぶつとつぶやきながら、渚はオートロックの鍵を開ける湊の後に続いた。