渚は立ち上がり、湊の右肩に手を置いた。

「私にそんな力があるかはわからないけれど・・・とにかくもう一度美里さんに会うべきだと思う。きっと美里さんはひとりで心細い思いをしているはずよ。湊・・・あなたがそれを支えないで誰が支えるの?しっかりして。」

しかし湊は頭を抱えて顔を伏せた。

「分からないんだ・・・自分がどうしたらいいか・・・。奈央と美里が一刻も早く一緒に暮らせればいいと心から願ってるのに・・・木之内惣の才能を諦めることも出来ない。」

「湊・・・。」

苦悩に震える湊の身体を、渚は思わず後ろからぎゅっと抱きしめた。

「わかった。私も行く。一緒に本当の美里さんを取り戻しに行くの。さっき私が会った美里さんは、一瞬でも奈央君を求め、奈央君の姿を探していた。きっと奈央君の母親としての自分を取り戻し始めているんだと思う。奈央君と美里さんがもう一度楽しい時を刻めるように、そして美里さんが美里さんの人格のまま作家として素晴らしい作品をこれからも産み出せるように、なにか手立てを考えるの。」

「しかし、どうやって・・・」

「それはまだわからない。でもとにかく美里さんにぶつかってみなければ始まらない。湊、あなたはひとりじゃないよ。私がいる。一緒に頑張ろう?」

そう耳元で囁く渚の声を聞き、湊は夢から目覚めたような顔つきに変わった。

「ありがとう。渚。」

「ううん。私、湊と出会ってたくさんの幸せをもらった。だから私も湊の力になりたい。」

「・・・渚の身体は温かいな。俺のそばに渚がいてくれて良かった。」

その言葉で渚は湊を抱きしめている自分に気づき、恥ずかしさに顔を赤らめ、さっと身体を離した。

「ご、ごめんなさい!急に抱きついたりして・・・」

「いや・・・俺はもう少しそのままでいたかったけどな。」

「・・・とにかく急ぎましょ!」

渚は湊を促し、立ち上がった。