ぐるぐると思考を巡らせる渚と危うい雰囲気を漂わせた木之内惣の元へ向かって、コツコツと大きな足音が鳴り響き、その足音の主が近づいてきた。

長身にグレーのスーツ、そして手には黒いブリーフケース・・・誰でもない、それは連城湊その人だった。

湊は渚と木之内惣の姿を見て、強ばった表情を浮かべた。

すると木之内惣は目に涙を一杯溜め、湊の胸に抱きついた。

「湊・・・湊・・・会いたかった・・・」

その言葉に湊の目は見開き、やがて木之内惣の顔を怖いほどの真剣な表情でみつめた。

ふたりが抱擁する姿を間近で目撃し、渚の胸はずきんと痛んだ。

しかしそんな胸の内をすばやく隠し、現状を湊に説明しようと必死に訴えた。

「ごめんなさい。あなたと木之内先生が夜更けにこっそり逢うほど深い仲だなんて知らなくて・・・声を掛けてしまって・・・本当にごめんなさい。」

湊は渚に目を向け、厳しい口調で言った。

「もういい。渚は黙ってろ。」

「だって・・・」

湊は木之内惣の両肩を掴むと、その肩を強く揺さぶりながら叫んだ。

「美里か?お前は美里なのか?!」

「湊・・・奈央は・・・奈央は、どこ?どこにいるの?」

「え・・・?美里・・・?木之内先生が・・・美里さん?」

衝撃の展開に理解が追いつかない渚は、湊と木之内惣・・・美里をぽかんと眺めた。

そうしているうちに美里はハッと表情を変え、湊の手を大きく振り払い、きびすを返し、あっという間に渚と湊の元から走り去って行った。