「あなた・・・誰?」

渚はショックだった。

ついこのあいだお会いしたばかりなのに、もう忘れられてしまったの?

・・・でも、それも仕方がないことなのかもしれない。

木之内先生には沢山のファンがいらっしゃるし、沢山の方とお会いするのだろう。

渚は初めて出会った人間として、もう一度自己紹介をすることにした。

「あ・・・えっと・・・私は先ほども申した通り、木之内先生のファンで、岡咲渚といいまして・・・」

するとさらにショッキングな言葉が返ってきた。

「木之内先生って誰?」

「え?!」

渚は耳を疑った。

まさかご自身のことまで忘れている・・・?

そのときハッと気づいた。

ここは連城家のすぐそばの道路だ。

普通に考えれば連城家に用があるとしか思えない。

そしてそこに住む湊は、木之内先生の担当編集者だ。

木之内先生はきっと湊に会いに来たに違いない。

もしかして秘密の合図で、湊を家の外まで呼び出している最中なのかもしれない。

ということは湊と木之内先生はやっぱりそういう関係・・・?

それなのに私が声を掛けてしまったから、それを誤魔化すためにわかりきった嘘で乗り切ろうとしている・・・?

まさか・・・私が連城家から出てきたところを見て、私と湊の仲を誤解した?!