奈央の家庭教師が終わった日の夜。

夕食をご馳走になった後、渚は連城家のいつもの裏口から外に出て、帰宅の途についた。

連城家の塀に沿った道路は人通りが少なく、暗い夜道に街灯が等間隔にぽつんぽつんと立てられているだけで、アスファルトに照らされた白い光だけが頼りだった。

自宅方向へ歩き出した渚の目に、その光のそばでぼんやり映る黒い影が見えた。

渚は目をこらしてその影をじっとみつめた。

あんなところに佇んで、一体何をしているんだろう?

物盗り?

強盗?

まさか・・・痴漢?

渚の背中に嫌な汗が流れた。

その汗がひんやりと冷たくなり、恐怖で身体が震える。

渚はすぐに自宅とは反対の方角へ身体を向け、駆け足で逃げ出そうとした。

とその瞬間、その影が実態を伴った。

白い顔、細い身体、柔らかいシルエット。

それは紛れもなく女性の姿だった。

渚はその影が女性だとわかるやいなや、襲われる可能性はないと判断し、安堵の息を吐いた。

そして自分の身が安全だと確信すると、今度は持ち前の好奇心が顔を出した。

あの女性はあんなところで、一体何をしているのだろう?

渚は塀の角で(みずか)らの身を隠し、女性の行動を注視した。