「そうだったんだ・・・。」

両親の馴れ初めを初めて聞いた渚は、母の父に対する想いの深さに驚いた。

「でもね。今は結婚にも色んな形があると思う。渚には渚に合った結婚をすればいいの。」

「うん・・・」

「でも結婚には何よりも愛が大事だと思うわよ?相手を尊敬しこの人と一緒に人生を歩んでいきたい、そういう気持ちがないとね。収入がどうとか勤め先がどうとか、そういう条件も必要かもしれないけど、一番大切なことを忘れないでよ?」

「うん・・・。そうだね。でもそういう相手に巡り会えるかどうかわかんないよ。」

「渚。結婚はフィーリングとタイミングよ。ここぞって人が現れたときは絶対に逃がしてはだめ。実はお父さんを狙っている女性は他にもいたの。南田さんっていう数学の先生でね、なかなかの美人だったわ。でもお母さん頑張った。もしかして人生で一番頑張ったかもしれない。」

「・・・何を頑張ったの?」

「それは内緒。」

「えー教えてよ。ケチ。」

「そんなこと自分で考えなさい。」

ハックションと啓治のくしゃみが聞こえてきて、渚は最近髪が薄くなってきたメタボの父啓治の姿を見た。

お父さん、あれでも昔は結構モテたんだ・・・

たしかに父と母は小さな喧嘩はしょっちゅうしているけれど、実はすごく仲の良い夫婦だと思う。

「愛、か・・・」

自分もいつか愛する人と結婚することが出来るのだろうか?

そんな未来がいまだ見えない渚は、小さくため息をついた。