「そうだったんですね。」

好きな芸人の推し活のためにマンションをぽんと購入か。

さすがお金持ちはやることのスケールが大きい。

「さらに推しグッズの置き場所としても活用したいのよね。DVDやらグッズやらが家に溢れかえっちゃって。奥さんに捨てられそうだから早急に避難させないといけなくて焦ってたの。そんなこんなで僕もいい物件を探してたってわけ。」

「それは良かったです!」

「ほんと湊に教えてもらって良かった・・・あっ」

小川は言葉を発した後、あわてて口元を両手で塞いだ。

「え・・・?今、湊って・・・?」

「あー聞こえちゃったかあ。」

小川は頭をかきながら、内緒話をするように声を小さくした。

「バレちゃったみたいだから言うけど、このマンションの情報、連城湊っていう後輩から聞いたのね。湊にはダンボールハウスドールのことを耳にタコが出来るくらい話してたからピンときたんでしょ。先輩にぴったりの物件をみつけたからスマイル&ピース不動産の岡咲っていう営業社員に連絡してみろってね。でもこれここだけの話ね。湊には絶対に俺の名前は出すなってキツく口止めされててさ。バレるとあいつの出版社で出してる本を100冊くらい買わされるはめになるから・・・内緒にしてね。」

「はい。もちろんです。お客様の友情を壊すようなことは絶対に致しませんのでご安心ください。」

そう言ってにっこり微笑んだ渚だったが、内心は激しく動揺していた。

相談しても全く協力しようとする姿勢を見せなかったあの湊が、私のために動いてくれたの?

湊って一体何なの?優しいと思ったら冷たくなったり、かと思ったら助けてくれたり・・・。ほんと意味不明・・・

そう思いつつも、渚は湊の不器用な優しさと温かさに、胸がいっぱいになった。