それから一週間後。

高藤が売りに出しているワンルームマンション「チェリオガーデンマンション707号室」の買い手が突然現れた。

それも一切の値引き交渉はなく、売値通りで購入するという。

しかもローンではなく現金一括払い。

まさに神様が舞い降りたような話で、売主の高藤はこの朗報を聞いて文字通り泣いて喜び、渚の胸のつかえも一気に軽くなった。

買い主は小川吾朗(おがわごろう)35歳、小規模ながらもそれなりの業績を伸ばしているデザイン会社の社長である。

さすが一国一城の主だけあって、金払いが良く太っ腹だ。

売買契約申し込みのため店を訪れた小川に、渚は神を拝むような気持ちで深々とお辞儀をした。

「この度はチェリオガーデンマンション707号室のご購入申し込み、本当にありがとうございます!!」

鮮やかな柄シャツに黄色いジャケットを羽織った小川は、「はいはい。どうも。」と上機嫌な様子で売買契約申し込み書に目を通した。

「もう9月なのにまだまだ暑いねえ。僕なんかまだ日焼け止め塗っているよ。ほら紫外線はお肌の大敵じゃない?こういう仕事してると外見のケアも仕事の内なのよ。」

着ている服に負けないくらい陽気な人柄の小川は、にこやかな笑顔を浮かべながらぽんぽんと軽口を叩いた。

「この暑い中、ご来店ありがとうございます!」

何度礼を言ってもいい足りないような気持ちで、渚は言葉に力を入れた。