「そのワンルームマンション、本当に良い物件なの。値段さえ下げればすぐに買い手が付くはずなんだけど・・・。」

「いくらで売りに出してるんだ。そのワンルームマンションは。」

渚はその金額を口にした。

湊は鼻から息を吐き、眉間にしわを寄せた。

「話にならないな。売値を下げさせるしかないだろ。」

「でも・・・高藤さんも借地権を買うのにどうしてもその金額が必要なの。売主さんの要望にはできる限り答えてあげたい。」

「理想だけじゃ仕事は進まないぞ。ときには冷徹になることも商売をやっていくには必要だ。」

「・・・・・・。」

「そのマンション名と場所を教えろよ。」

「S区O町にあるチェリオガーデンマンション。」

湊はスマホからグーグルマップアプリを起動して検索を始めた。

「ああ。あそこか。」

どうやら湊はチェリオガーデンマンションが建っている辺りに土地勘があるようだった。

「ちなみに部屋番号は」

「湊には関係ないでしょ?」

「いいから教えろ。」

「・・・707号室だけど。」

「部屋番号は縁起がいいな。そこを推してみたらどうだ?」

「人ごとだと思ってふざけないでよ。」

「ふっ。お前でもそんなネガティブになることあるんだな。」

そう言って湊はにやりと笑った。

「・・・・・・馬鹿にして。」

しかし仕事の突破口を見いだせない渚は、湊の軽口に言い返す元気もなかった。