「でもお母さんが働いてて、ひとりでお留守番とか・・・子供の頃淋しくなかった?」

「そりゃ淋しかったですけど・・・それ以上に誇らしかったです。スーツを着て働きに行く母は格好いいと思いました。」

「お母さんにとっても宗像君は誇らしい息子だと思うよ?そんな良い子の宗像君にこれあげちゃう。」

渚は自分の弁当箱から特大海老の天ぷらを和樹の弁当箱のふたに置いた。

「えっ?!そんな、悪いですよ。これ渚先輩の弁当のメインおかずじゃないですか。」

「いいのいいの。私はもうお腹いっぱいだから。宗像君は男の子なんだから沢山食べてもっと成長しなくちゃね。」

「男の子って、俺もう27ですよ?子供扱いしないでください。」

長身の和樹が姿勢を伸ばし、不満げな顔をしてみせた。

「そっか!こめんごめん。」

「まあ・・・俺は童顔ですから、たまに学生に間違えられることもありますけどね!」

「でしょ?」

渚と和樹は顔を見合わせて笑った。

「・・・渚先輩って仕事には厳しいけど、何気(なにげ)に優しいですよね。」

渚からもらった特大海老てんぷらをみつめながら、和樹がそうつぶやいた。

「え?」

「仕事してる姿も格好いいですし。」

「なになに?おだてても何も出ないよ?・・・さて私は仕事に戻るかな。」

そう片付けを始めた渚に和樹は真面目な顔で言った。

「渚先輩の婚活の相手・・・俺も立候補していいですか?」

「・・・え?」

「俺、結婚したら良い夫、良いパパになりますよ?優良物件だと思うけどな。」

「またまた。先輩をからかわないでよ。宗像君は若いんだし、私よりうんと可愛い彼女がすぐに出来るよ。頑張って!」

渚はそう言って和樹の背中をぽんぽんと二回叩くと、休憩室を出て化粧直しをするために女子トイレへ向かった。

トイレの洗面台で自分の顔を鏡に映し、渚は大きく息を吐いた。

「あーびっくりした!宗像君ってあんな冗談言う子だったっけ?」

和樹の甘い言葉に渚の心臓がドキドキと高鳴っていた。

たしかに宗像君と結婚したら、家事や育児も積極的に担ってくれそう。

それって・・・アリ、かも?

いやいや、さっきのは冗談・・・よね?

あんなに若くて可愛いモテ男子が、わざわざ三十路の行き遅れ女を選ぶはずないって。

それでも久しぶりに女性として認められたような気がして、渚の胸はウキウキと弾んだ。