この美しい女性が・・・木之内惣先生?

ていうか木之内先生って女性だったの?

てっきり男性だとばかり思っていた。

でも・・・考えてみればあの艶やかな文体は女性にしか描けないものだわ。

ああ、憧れの木之内惣先生にお会いできるなんて・・・これは夢?

そう感動に打ち震える渚を、木之内惣が不思議そうな顔で眺めた。

「湊君、この方は?バイトのお嬢さん?初めてみる顔だけれど。」

木之内惣の問いかけに湊が答えようと口を開いた。

しかしそれより早く、渚は木之内惣の前に立ち、キラキラと瞳を輝かせながら自己紹介を始めた。

「私、岡咲渚と申します!木之内先生の小説が大好きで毎日のように読んでいます!先生の小説は温かくて優しくて美しくてピュアで・・・とにかく全てが最高です!恥ずかしながら木之内先生の小説をたったいまコンプリート致しました!もしご迷惑でなければこの本にサインを頂きたく!」

渚はたったいま湊からプレゼントされた本を、素早く木之内惣の目の前へ差し出した。

「あら・・・『紫陽花と少年』ね。久しぶりにみた。・・・懐かしいわあ。これ私の処女作なのよ?」

「はい。存じあげております。」

「あ、サインね。いいわよ。湊君、サインペン貸して。」

「木之内先生、すまない。俺の知り合いが図々しくて。」

湊はそう言って渚を睨みチッと舌打ちをしたが、渚はそんなことは全く気にしていなかった。

木之内惣は湊からサインペンを受け取ると、『紫陽花と少年』の裏表紙にすらすらとサインを書いた。

そしてその本をまた渚に手渡した。

「いつも読んでくれてありがとう。これからもよろしくね。」

「はい!もちろんです。これからもお身体に気をつけて頑張ってください。応援してます!」

そして渚はサインだけでなく握手も求め、木之内惣の白魚のような手を握りしめることが出来たのだった。