渚は夢見心地の表情でその本を抱きしめた。

今すぐ読みたい!・・・そんな気持ちを抑えるのに精一杯だった渚は、しばらくして目の前の湊にお礼を言っていなかったことにハッと気づいた。

「あの・・・連城さん。」

「なんだ。」

「私、あなたのこと誤解してたみたい。あなたは頭でっかちでデリカシー皆無の俺様オトコだと思ってた。ううん、今もそう思ってる。」

「おい。」

「でも優しいところもあるのね。・・・今日は本当にどうもありがとう。」

渚の言葉に湊はフッと鼻で笑った。

「お前からそんなに心のこもった言葉が聞けるとは思わなかったな。雪が降ったらどうしてくれるんだ。車にタイヤチェーンを巻かないといけないだろ。」

「ちょっと!私からの素直な気持ちを受け取りなさいよ。」

「お前が素直になると天変地異が起きる。」

「はあ?あなたがこんなサプライズするなんてそれこそ天変地異の前触れだわ。」

そう言い争う渚と湊に、透明感あふれる上品な女性が、おっとりとした口調で声を掛けた。

「なあに?天変地異って。もしかしてノストラダムスの大予言的なこと?」

渚と湊は同時に声の主の方を向いた。

渚の目に映ったのは、静かに微笑む美しく儚げな女性だった。

ボブカットのさらさらな黒髪、ほっそりとした身体をエメラルドグリーンのブラウスと白いパンツで包み、女神のようなオーラが輝いている。

さすが大手出版会社・・・こんなに綺麗な社員もいらっしゃるのね・・・と渚は思わず感嘆のため息をついた。

すると次の瞬間、渚は湊の言葉を耳にして、さらにその何十倍も驚愕した。

「木之内先生・・・どうしてここに?今日は打ち合わせの予定なんてなかったはずですが?」

「あら。予定が無くちゃ来てはいけないの?最近湊君冷たいじゃない?連絡もいつもメールばかりで、たまには仕事場に顔を出したらどう?私と湊君の仲じゃない。」

「しかし編集部に来られるときは連絡をすると約束したはずだ。こちらにも予定というものがあるんです。」