湊の言葉に渚はほくそ笑んだ。

あの日の奈央君はスンとしていたけれど、やっぱり私の「湊さんのケーキは愛だ」発言が響いたのかしら?

奈央君ってほんとに素直ないい子。

「お前が魔法をかけた、と絹さんが言っていた。」

「私は何もしてないわ?元々奈央君は賢くて優しい子なのよ。」

「これがそのとき作ったクッキーだ。」

湊はジャケットのポケットから、グリーンのリボンでラッピングされている小さな袋を取り出した。

その透明なセロファンからは星形の手作りクッキーが見えている。

「お前にやる。」

「あ、ありがとう。」

渚はとまどいながらも、その突然のプレゼントを心から嬉しく思った。

「奈央君と仲良くなれて良かったわね。あ・・・でも、そしたらなんで奈央君は私の連絡先をあなたに教えないのかしら?」

「どうやら俺にお前を取られたくないらしい。」

「え?」

「渚の愛は僕のものだ・・・と奈央が言っている。」

「なにそれ!奈央君可愛い!可愛すぎる!!」

飛び上がらんばかりに喜ぶ渚に湊はスマホを差し出した。

「てことで連絡先を教えてくれ。」

「・・・わかったわよ。」

渚と湊はお互いのラインアカウントを交換した。

「で?今日はなに?なにか用事があって来たんでしょ?」

腕を組む渚に湊は照れくさそうに微笑んだ。

「いつも奈央の世話をしてもらっているお礼だ。俺と一緒に来てくれ。」

その少し柴犬に似た笑顔に、渚の胸がどきんと高鳴った。

違う違う!これはときめきじゃなくただの動悸だから!

「ま、お前がどうしても嫌だと言うなら退散するけ」

「誰も嫌だなんて言ってないでしょ?」

そう食い気味に渚は答えた。

「・・・まあ・・・そんなに言うなら行ってもいいけど?」

渚はサイドの髪を耳にかけながら、そうもったいつけて微笑んだ。