美和子は届いたチーズケーキを口に入れてンッ!と声を上げた。

「このチーズケーキ美味しい!」

「どれどれ?」

渚も一切れチーズケーキを口に入れ、舌の上でゆっくり味わってみた。

「うん!美味しい。・・・でも」

「でも?」

「私、ある人が作るこれよりもっと美味しいチーズケーキをこの前食べちゃって。それ以来舌が肥えてしまってどのスイーツも今ひとつ物足りなくなっちゃって、ほんと困ってるんですよ。」

「へえ・・・贅沢な悩みですねえ。そのある人って、とても料理上手な女性なんですね!素敵。」

「いや・・・女性ではなくて・・・男性なんですけどね。」

「ええー?今流行のスイーツ男子ですか?料理上手な男性っていいですよねえ。もしかして岡咲さんの彼氏さん?」

そう羨ましそうな顔で上目遣いになった美和子に、渚はしかめ面してみせた。

「まさか!ただの知り合いですよ。彼氏だなんて冗談じゃない。」

「えー?それじゃあその方紹介してくださいよ。」

美和子の言葉に渚はゆっくりと首を横に振った。

「やめておいた方がいいですよ?その人、性格に難ありだから。堀内さんにはもっといい男がいますって。私が保証します。」

「そうなんですかあ?でも私、料理好きな男性と結婚したいなって夢があって。そしたら私は仕事を辞めて専業主婦になって、一生懸命家事をして子育てして暮らしたいと思ってるんです。そして休みの日には家族で手作りそばを打ったり、美味しいパンを焼いて過ごすんです。」

「ふーん。それはいいですねえ・・・」

あの男・・・連城湊も堀内さんのような女性を求めているんだろうな・・・

渚はアイスコーヒーを吸ったストローから口を離すと、小さくため息をついた。

「でもせっかく手に入れた正社員の座ですよね?本当に辞めちゃうんですか?」

渚がそう改めて問いかけると、美和子はコロコロと笑った。

「もちろんですよ!受付嬢は会社にとっても若い子がいいんだろうし。それに片手間で出来るほど主婦の仕事って簡単じゃないと思うんです。子供のこともちゃんと見てあげたいし・・・。岡咲さんは?」

「私は・・・この仕事が好きですし、結婚しても子供を産んでも続けていきたいと思ってます。」

でも結婚自体出来るかどうかわからないけどね・・・と渚は心でつぶやく。

「そうなんですね。岡咲さんなら出来ますよ。お互い婚活頑張りましょうね!」

「そうですね。頑張りましょう!」

渚と美和子はそうお互いを励まし合った。